WorldCon Dublin 2019 #3 ネットワーキングの真っ只中に我々は生きている

死の真っ只中に我々は生きている

ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』

前回から間が空きすぎて、もはや記憶も薄れてきてしまったのですが、ワールドコンにおいて重要な要素を占める「ネットワーキング」について紹介します。

ネットワーキングとは

ネットワーキングというのは、日本語に直すと「人脈作り」ですが、ビジネス上普通のことと考えられており、ワールドコンでもそのための機会が設けられています。というより、ほとんどのカンファレンス・コンベンションなどのイベントではこうした「参加者同士に交流させる仕組み」がセットでついています。

パーティー

ワールドコンでは、2日目の夜に各国のファンダムが開催するパーティーがありました。特に参加制限などはなく、各国の出しているブースに「いついつどこどこでパーティーやるよ」と書いてあります。

僕が参加したのは中国、日本、フランス、アメリカの4カ国。順番に紹介します。

中国

中国は成都のコミュニティが主催。『三体』の大ヒットで注目度が高く、気づいた時にはものすごい列をなしておりました。パーティーなのでタダ酒が飲めるのかな? と思っていましたが、お茶とお菓子だけという大変健全なパーティー。口がパサパサになるお茶受け(中国菓子で名称わからず)の食べ方を白人女性に教えてあげたりしました。

印象的だったのは、共産党関係と成都市長と思われる方の挨拶が「短編小説の朗読?」というぐらい長かったこと、そして、それに関して一切のツッコミが入らなかったこと。アピールの中心はズバリ「2023年ワールドコンを成都に招致したい」です。政府の人がSFコミュニティで挨拶している図式というのが日本ではあまり見られないので、中国SFの勢いを感じました。

参加者も大変若く、作家も20代から40代ぐらいが中心。来年に『荒潮』の翻訳が出るスタンリー・チェンこと陳楸帆(チェン・チウファン)もいました。

荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

価格¥1,980

順位122,850位

陳 楸帆

イラストみっちぇ

翻訳中原 尚哉

発行早川書房

発売日2020年1月23日

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日本

日本は日本のファンダムなどを中心に来ていて、例年参加されている人が多いようです。小谷真理先生&巽孝之先生もいらっしゃいました。

日本のパーティーではただ酒が振る舞われたため、こちらも大変混雑! 他の会場でアルコールをゲットできなかった人々でごった返していました。

フランス

フランスは同じくワールドコン招致を目指すニースのコミュニティが主催。タダ酒を飲めたかどうか、記憶が定かではないですが、たぶんなかったような気がします。当方、大学時代にフランス文学専攻だったため、フランス語での会話を試みましたが特に興味持たれず。ミシェル・ウエルベックを読んでいる人に会えなかったのが残念でした。『素粒子』は最高のSFなのに……n’est-ce pas?

セロトニン

価格¥2,640

順位86,954位

ミシェル・ウエルベック

翻訳関口涼子

発行河出書房新社

発売日2019年9月26日

最新作『セロトニン』も面白いですよ。

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アメリカ

2021年のワールドコン招致を目指すワシントンが主催。ワールドコンは2年後の開催地を投票で決めるので、最終決戦とばかりにビールを振る舞っていました。

印象的なのはファンダムの年齢層が高いこと。黄金期が1950~60年代だったということも関係するのか、その前後に青春時代を送った人が多そうでした。

たぶんレジェンドクラスがいっぱいいたはずなのですが、誰が誰だか忘れました。


パーティーは基本的にはウェルカムな雰囲気です。ただ、自分から話しかけないとなにも始まらないので、話しかけましょう。

休憩中など

さて、パーティーだけではなく、カフェやランチで休憩しているとき、ブースに立ち寄ったとき、パネルに並んでいるときにも交流が生まれます。印象的なものを2つばかりご紹介。

母語で書ける幸せ

ファンタジーのパネルに並んでいるとき、後ろに並んでいる女性と少し話しました。彼女はギリシャ人ですが、ロンドンに住んで英語でファンタジーを書いているとのこと。まだ商業の仕事はしたことがないが、最近は英語で考えられるようになったので書くのが楽になったとか。

ギリシャではファンタジー書籍の市場が存在しないそうで、母語ではない言葉(英語)で小説を書かざるを得ないそうです。神々の国なのに……。水村美苗『日本語が滅びるとき』を思い出しました。需要が少なくても母語で文学できる僕(そしてあなた)はラッキーですね。

邦訳あったの!?

カフェでたまたま隣になった女性(また女性か? と思われるかもしれませんが、たまたまです)はプロ作家。東欧の作家さんで、単行本もお持ちでした。どれどれ、と検索してみると、なんと邦訳がハヤカワから出ている! それに、その翻訳が日本で賞取ってる!

名前を聞いたら隙を見てググるぐらいの方が話題が広がりますね。まあ、そのときはググったんですけど、いまは忘れてしまったのですがね……。


といった感じで、いろんな出会いがあります。隅っこで縮こまらず、話しかけてみましょう!

アフターパーティー

こうしたコンベンションでは二次会的なものが存在します。半分プライベートなものなので、詳細はかけないのですが……そうですね、たとえばSci-Fireがめちゃくちゃ凄い団体だと仮定しましょう。そこで「よっしゃ、二次会行こうぜ!!」とコンベンションセンターのロビーで喚いていたとします。そこにファンの人が「私も行っていいですか?」ときて、そういえば常連さんだなと思ったら「どうぞ」となりますよね。そんな感じです。

公式のパーティーよりもプライベートな場では、主催者側にある程度の自衛意識が働くのが普通。金を払わない人、セクハラする人、シンプルな異常者……色々考えてしまいますね。「誰でもおいでよ!」と大声では言いづらくなります。しかし、紹介者や共通の知り合いがいれば話は別。知り合いの知り合いぐらいでも大丈夫でしょう。なんにせよ、つながりがあればそこに混じれるので、知り合いは増やしておきましょう。

なんとなく持って回った書き方になりましたが、こうした非公式の飲み会もネットワーキングの一つです。

物書きはネットワーキングをすべきか?

さて、この節は物書き向けの情報です。まず、物書きの多くは人付き合いが得意ではありません(断言)

たまに僕は「高橋さんはコミュ力(りょく)あっていいですね」と言われるのですが、これは後天的なものです。高校生ぐらいのときは同級生に突然「どうして怒ってるの?」「そんな見下した目で俺を見るな!」と言われる天才的ともいえる排他的雰囲気を持っていたのですが、努力の末「なんか怖そう……」ぐらいに落ち着きました。

  • 顔を覚えられない
  • 英語が得意ではない
  • 話すのは疲れる

こういった理由はよく聞かれますが、みんなそうです。無理して話すとパニック障害の発作が出てぶっ倒れてしまうなどの医学的理由がない限り、多少の無理はしてみましょう。

若干の三木谷感を出しつつもなぜこんなに「ネットワーキング」を勧めるかというと、理由があります。もしこれを読んでいるあなたが書き手ならば、二時間執筆時間を増やしたところで大した成長はないでしょう、というのも、これまでに散々書いてきたからです。10,000が10,002になるだけです。しかし、二時間我慢してパーティーに参加すると知り合いが増える可能性がものすごく高いです。弱点の補強はもっとも成果の出やすい成長。弱点だったフィジカルを克服したラグビー日本代表を見よ!

とくに作風が既存の商業出版のカテゴリーにすっぽり収まらない人ほどネットワーキングは重要です。僕の知る限りでも、成功しているフリーランサー(そう、作家はフリーランサーです)は社交的な人が多いです。反発を覚える物書きは多いでしょうが、一度試してみてはいかがでしょうか。


今回はなんとなく下心満載のワールドコン紹介記事になりましたが、こうしたコンベンションやイベントでの最大の財産は「そこで出会った人々」です。たまたま隣に座った人がなんらかの賞を受賞していたりするのは、ワールドコンならではでしょう。

最後になりますが、ワールドコンのパネル登壇体験パワポが載っているSci-Fire 2019がBoothで通販中ですので、よろしくお願いします。

投稿者:

高橋 文樹

小説家。ゲンロンSF創作講座に一期生として参加し、ゲンロンSF新人賞飛浩隆特別賞を受賞。Webプログラマー、DIYerなどの多様な側面を持つ。

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