「Sci-Fire」メンバーの単行本、続々刊行!!

先ごろ「Sci-Fire」の作家3人が単行本を上梓しました。

斧田小夜『ギークに銃はいらない』

ギークに銃はいらない

価格¥2,420

順位341,594位

斧田小夜

発行破滅派

発売日2022年6月20日

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ゲンロンSF新人賞の正賞・優秀賞者は現在第5回まで9人となりました。

その中で初の単行本上梓となったのが、第3回優秀賞の斧田小夜さんです。

斧田さんは高橋文樹さん主催のオンライン文芸誌破滅派に所属し「破滅派のル=グウィン」と言われる作家です。第3回ゲンロンSF新人賞優秀賞を受賞したほか、「飲鴆止渇(いんちんしかつ)」で第10回創元SF短編賞優秀賞を受賞。同作は東京創元社の文芸誌『ミステリーズ!』最終号に掲載され、現在は東京創元社より電子版が発売中です。

抑制の効いた精緻な描写で厳しくリアルな近未来世界と人間像を描き切るのが斧田さんですが、『ギークに銃はいらない』では、さらにパワーアップして読者をもてなしてくれます。表題作は苦さも含めて完璧な青春小説だと思ったし、「眠れぬ夜のバックファイア」は苦しみを描いてもそこにとどまらず、読み終えると同時に自由の喜びがありました。

創元SF短編賞の授賞式では宮内悠介さんが「(斧田さんは)志が高い人だと思った」と将来を祝福していらっしゃいましたが、本書の帯には大森望さんからの「日本SF第七世代の牽引者となることを望みたい」と期待と信頼を寄せた言葉が載っています。

7月にはSFセミナーのゲストにもなりSFファンの注目を浴びた斧田さん。これからの活躍が楽しみです。

櫻木みわ『コークスが燃えている』

コークスが燃えている

価格¥1,650

順位21,804位

櫻木 みわ

発行集英社

発売日2022年6月3日

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櫻木みわさんの『うつくしい繭』に続く第2単行本『コークスが燃えている』は、昨年「すばる」に掲載された時から話題騒然だった作品で、満を持しての単行本化です。純文学だけれど、エンタメとしても第一級の作品。人間存在の謎に分け入っていく探求の物語でもあり、私は雑誌掲載時に、「これは人魚姫の物語だ」なんて思ったのでした。主人公ひの子を苦しい世界に送り出す魔女がいて、ひの子を助けようとする人魚姫の姉のような女たちがいる。恋人の春生を「ひどい男だ」とする感想が多かったようですが、私はそう思いませんでした。

むしろアンデルセン描く王子様のように「夢の男」として描かれていた気がしたのでした。陸の世界で一歩一歩歩くたびに痛くても、恋が成就せず海の泡にされても人魚姫は幸福だったでしょう?

本書をSFとして読む人はいないかもしれないけれど、櫻木さんの小説家としての出発がSFであったのは、櫻木みわという創作者自身が、読者にとってため息の出るようなセンスオブワンダーに満ちた文章と光景を描いてくれるからだと私は思っています。

櫻木さんの小説を初めて読んだのはゲンロン大森望SF創作講座第1期の課題提出作でしたが、「まるでラファティ『他人の目』のヒロインが小説書いたみたい」と思いました。 世界の全てを精妙な喜びと官能に満ちたものとして感受し、他者に善意を抱いている。だから悪意を向けられる事が理解できない人。

今もそう思っています。

新作『カサンドラのティータイム』は11月発売だと小説トリッパー公式アカウントでツイートされました。3冊目の単行本上梓を待っています。

藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』

鯉姫婚姻譚

価格¥1,760

順位161,847位

藍銅 ツバメ

発行新潮社

発売日2022年6月30日

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藍銅ツバメさんの日本ファンタジーノベル大賞2021受賞作 『鯉姫婚姻譚』は、これもまた人魚姫の物語なのですが、アンデルセンではない。遠野物語など日本の昔話を再話してみせるのは国内ファンタジーの常道ですが、藍銅さんの表現力は凡百とは違います。

とにかく文章がずばぬけていい。平易な語彙を選びながら深く鮮明なイメージを提示してくれます。会話は近世町人と各地の訛りを生き生きと操って胸に迫る。読者にとって遠い世界が手に触れられるほど、ささやきが聞こえるほど、間近く語られている。

その一方、凄惨な出来事と無邪気な残虐さによって、登場する異類たちの感覚が現実の人間と異なることが強調されます。

現実とは違う架空世界のリアル。書物やゲームのリアルを信じている作者の物語なのだと読みました。

小説すばるや小説新潮で次々と新作を発表する藍銅さん。

櫻木みわさん司会で新川帆立さんと共にゲンロンカフェイベント「生きる、戦う、書く——SF創作講座卒業生3人が語る新人作家のリアリティ」に出演なさった折にも次作を書く意欲に満ちていらした。ファンタジー作家というと浮世離れして俗世間と隔絶している気がしてしまうものだけれど、藍銅さんは他の作家やファンとの交流も楽しんでいらして、来る第59回日本SF大会「F-CON」ではサイン会をしてくれます。大森望さん櫻木みわさん新川帆立さん藍銅ツバメさんが同じ時間帯でサイン会をする予定。師弟と作家仲間が並ぶのが楽しみです。

新川帆立「接待麻雀士」

そして、新川帆立さんのことも書かせていただきます。新川さんはいまや誰でも知っている大ベストセラー作家にして月9ドラマ原作者ですが、SF作家でもあるのです。

ゲンロン大森望SF講座5期受講の申し込みをしていらした新川さんは、講座開始とほぼ同時に『元彼の遺言状』で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し推理作家デビューしたため正規受講生から聴講生になりました。次々と書き下ろし作品が刊行されベストセラーになっていますが、SF創作講座生とも気さくに交流してくださいます。

なにしろ新川さんは小説誌に初めて寄稿した短編小説がSF作品「接待麻雀士」でした。そしてこの作品が『現代の小説2022 短篇ベストコレクション』 (小学館文庫 日本文藝家協会・編)に選出されて8月5日に刊行したばかりです。

この短編がとてもいい。架空の法律世界で苦境に立たされ、知略と意思と麻雀の技術で自由な世界に踏み出していく主人公がすてき。そして卑しい性格の敵役も魅力的でした。「徹底して嫌な人間」のままなのに、読み進むうちにいじらしく感じられるほどに描ける小説力がすばらしいなあ。

SF大会のサイン会には『元彼の遺言状』の剣持麗子シリーズだけでなく多くのご著作が並ぶだろうけれど、SFファンはこの短編ベストコレクションにも注目してください。

付記

昨年の櫻木みわさんに続いて、斧田さん・藍銅さん・新川さんも今年日本SF作家クラブ会員になりました。SF&ファンタジー作家としてのご活躍をこれからも応援したいですね!

投稿者:

甘木零

筆名の読みは、あまき・こぼる。SF創作講座2期~4期生。 創刊2号より参加。「Sci-Fire 2021」責任編集者。

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